東京高等裁判所 平成6年(ネ)3688号 判決 1997年6月26日
第三九六〇号事件控訴人、第三六八八号事件・第三八八一号事件・第三九〇八号事件各被控訴人(以下「第一審原告」という。)
緒方靖夫
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
上田誠吉
同
鶴見祐策
同
鈴木亜英
同
小林亮淳
同
小木和男
同
弓仲忠昭
同
森卓爾
同
小口克巳
同
中野直樹
右弓仲忠昭訴訟復代理人弁護士
大森鋼三郎
同
武下人志
第三九六〇号事件被控訴人、第三八八一号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)
国
右代表者法務大臣
松浦功
右指定代理人
植垣勝裕
外一二名
第三九六〇号事件被控訴人、第三六八八号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)
神奈川県
右代表者知事
岡崎洋
右訴訟代理人弁護士
福田恆二
右指定代理人
滝島均
外八名
第三九六〇号事件被控訴人、第三九〇八号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)
甲野太郎
第三九六〇号事件被控訴人、第三九〇八号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)
乙山松夫
第三九六〇号事件被控訴人、第三九〇八号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)
丙川竹夫
第三九六〇号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)
丁原梅夫
右四名訴訟代理人弁護士
新井弘治
同
八代宏
同
松本廸男
主文
一 第一審原告らの各控訴に基づき、原判決中第一審被告国及び同神奈川県に関する部分を次のとおり変更する。
1 第一審被告国及び同神奈川県は、各自、第一審原告緒方靖夫に対し金二二八万六一七五円、同緒方周子に対し金一一〇万円、同緒方サワに対し金六六万円及び右各金員に対する昭和六一年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第一審原告らの第一審被告国及び同神奈川県に対するその余の請求をいずれも棄却する。
二 第一審被告甲野太郎、同乙山松夫、同丙川竹夫の各控訴に基づき
1 原判決中第一審被告甲野太郎、同乙山松夫、同丙川竹夫の各敗訴の部分を取り消す。
2 第一審原告らの第一審被告甲野太郎、同乙山松夫、同丙川竹夫に対する請求をいずれも棄却する。
三 第一審原告らの第一審被告甲野太郎、同乙山松夫、同丙川竹夫、同丁原梅夫に対する各控訴、第一審被告国及び神奈川県の第一審原告らに対する各控訴をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、第一審原告らと第一審被告国及び同神奈川県との間に生じたものは、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を第一審原告らの、その余を第一審被告国及び同神奈川県の負担とし、第一審原告らと第一審被告甲野太郎、同乙山松夫、同丙川竹夫との間に生じたものは、第一、二審を通じて全部第一審原告らの負担とし、第一審原告らの第一審被告丁原梅夫に対する控訴費用は第一審原告らの負担とする。
五 この判決は、第一項の1に限り、仮に執行することができる。
ただし、第一審被告国、同神奈川県が、第一審原告緒方靖夫について各金五〇万円、同緒方周子について各金二五万円、同緒方サワについて各金一五万円の担保を供したときは右担保を供した第一審被告は、その担保を供した相手方である第一審原告との関係において、右の仮執行を免れることができる。
事実
第一 申立て
一 第一審原告ら
1 原判決を次のとおり変更する。
(一) 第一審被告らは、各自、第一審原告緒方靖夫(以下「第一審原告靖夫」という。)に対して、金一一〇八万三七九二円、同緒方周子(以下「第一審原告周子」という。)に対して、金一一〇〇万円、同緒方サワ(以下「第一審原告サワ」という。)に対して、金一一〇〇万円及び右各金員に対する昭和六一年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
(二) 第一審被告国は第一審原告靖夫に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第一審被告国、同神奈川県(以下「第一審被告県」という。)、同甲野太郎(以下「第一審被告甲野」という。)、同乙山松夫(以下「第一審被告乙山」という。)、同丙川竹夫(以下「第一審被告丙川」という。なお、第一審被告甲野、同乙山、同丙川の三名を一括して「第一審被告個人三名」ともいう。)の第一審原告らに対する各控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。
4 1、3項につき、仮執行宣言。
二 第一審被告国
1 原判決中第一審被告国の敗訴の部分を取り消す。
2 第一審原告らの第一審被告国に対する請求をいずれも棄却する。
3 第一審原告らの第一審被告国に対する各控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。
5 担保を条件とする仮執行免脱宣言。
三 第一審被告県
1 原判決中第一審被告県の敗訴の部分を取り消す。
2 第一審原告らの第一審被告県に対する請求をいずれも棄却する。
3 第一審原告らの第一審被告県に対する各控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。
5 担保を条件とする仮執行免脱宣言。
四 第一審被告個人三名
1 原判決中第一審被告個人三名の各敗訴の部分を取り消す。
2 第一審原告らの第一審被告個人三名に対する請求をいずれも棄却する。
3 第一審原告らの第一審被告個人三名に対する各控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。
5 担保を条件とする仮執行免脱宣言。
五 第一審被告丁原梅夫(以下「第一審被告丁原」という。)
1 第一審原告らの第一審被告丁原に対する各控訴をいずれも棄却する。
2 第一審被告丁原に対する控訴費用は第一審原告らの負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱宣言。
第二 当事者の主張及び証拠
次の一のとおり付加、訂正し、二のとおり当審における主張を追加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の付加、訂正
1 原判決四枚目表九行目の「「被告個人ら」」の次に「又は「第一審被告個人四名」」を加え、同五枚目表六行目の「盗聴実行グループは、」を削り、同七行目の「電話の通話内容を」から同八行目までを「電話による通話が継続的に盗聴された(以下、第一審原告ら自宅に設置された電話による通話の傍受(盗聴)を「本件盗聴」又は「本件盗聴行為」という。)」と改め、同裏一行目の「株式会社東芝」の次に「(以下「東芝」という。)」を加え、同一〇行目の「株式会社」を削り、同末行の「名義」を「、連帯保証人を訴外志田」と、同六枚目表七行目の「東京都民銀行」を「株式会社東京都民銀行(以下(東京都民銀行」という。)」と、同九行目の「支払った。」を「支払う手続をした。」と、同裏末行の「本件アパート前の端子函及び」を「本件アパート前の電柱上の端子函及びメゾン玉川学園内の」と改め、同七枚目裏七行目の「東京地方検察庁」の次に「(以下「東京地検」ともいう。)」を加え、同八枚目表末行及び同裏四行目の「家宅捜索」を「捜索差押」と改め、同一〇枚目表四行目の「原告靖夫は、」の次に「前記4(二)(2)記載のとおり、東京地検に対し、」を加え、同裏二行目の「裁定を行った」を「処分をした」と、同六行目から八行目までを「その結果、東京第一検察審査会は、昭和六三年四月二〇日、前記不起訴処分について、第一審被告甲野、同乙山、同丙川の電気通信事業法違反については不起訴不当の議決をした(同月二七日議決書作成)。」と改める。
2 原判決一一枚目表四行目の「東京地方裁判所」の次に「(以下「東京地裁」ともいう。)」を、同五行目の「東京高等裁判所」の次に「(以下「東京高裁」ともいう。)」を加え、同六行目の「いずれも」を「その理由中で」と、同裏一行目の「断じたのである」を「判断した」と、同一五枚目表三行目の「教養」を「教育」と改め、同一六枚目表四行目の「関与の態様」の次に「、発覚後の行動等」を加え、同九行目の「遺留物等」を「物品」と改め、同一七枚目表末行の「関与の態様」の次に「、発覚後の行動等」を加え、同裏一行目から二行目にかけての「次のような遺留物等を残置した」を「次の①ないし④記載の物品を残置したほか、同⑤記載のようなことがあった」と改め、同一九枚目裏六行目の「関与の態様」の次に「、発覚後の行動等」を加え、同八行目の「警備部長ないし公安第一課長」を「警備部長(以下「県警警備部長」ともいう。)ないし同部公安第一課長」と、同二〇枚目表六行目の「横浜銀行」を「株式会社横浜銀行(以下「横浜銀行」という。)」と改め、同二一枚目表末行の「関与の態様」の次に「、発覚後の行動等」を、同二二枚目表九行目の「都民銀行」の前に「前記預金口座から東京」を加える。
3 原判決二三枚目裏五行目の「故意の」及び同一〇行目の「その公権力を行使して、」を削り、同末行の「事務を行っている」を「事務等の公権力を行使している」と改め、同二四枚目表二行目の「不当にも」を削り、同七行目の「日本共産党に対する違法な情報収集活動(盗聴行為を含む)」を「神奈川県警察本部に対し、本件盗聴」と、同八行目の「奨励等の、職務を行うについての」を「奨励等をし、盗聴実行グループに本件盗聴の実行をさせるという」と改め、同末行の「神奈川県警察本部長」の次に「(以下「県警本部長」ともいう。)」を加え、同裏六行目の「実行させるなどの」を「実行させるという」と改め、同九行目から同二五枚目表二行目までを次のとおり改める。
「(4) 一般職の国家公務員(地方警察官)である県警警備部長は、盗聴実行グループの本件盗聴を予見し、これを回避し得る立場にあったのに、不注意によりこれを予見せず、又は回避しなかった過失があるから、第一審被告国は、国家賠償法一条一項に基づき、第一審原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。」
4 原判決二五枚目表八行目の「実行させるなどの故意の不法行為」を「実行させるという故意の不法行為又は同警備部長が盗聴実行グループの本件盗聴を予見し、これを回避し得る立場にあったのに、不注意によりこれを予見せず、又は回避しなかった過失による不法行為」と改め、同一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「また、第一審被告国は、警察法三七条一項七号、警察法施行令二条七号、八号により、神奈川県警察の警備情報収集活動に関する経費を全額負担しているものであるから、国家賠償法三条一項に基づき、第一審被告個人三名及び第一審被告丁原(以下、右四名を一括して「第一審被告個人四名」ともいう。)の故意の不法行為によって第一審原告らが被った後記損害を賠償すべき責任がある。」
5 原判決二五枚目裏一〇行目から末行にかけての「実行させるなどの故意の不法行為」を「実行させるという故意の不法行為又は同警備部長が盗聴実行グループの本件盗聴を予見し、これを回避し得る立場にあったのに、不注意によりこれを予見せず、又は回避しなかった過失による不法行為」と、同二六枚目表五行目の「するなどの」を「するという」と、同裏六行目及び同行から七行目にかけての「裁定」を「処分」と改め、同二七枚目表三行目の「誓約している」の次及び同五行目の「厳しすぎる」の次に各「こと」を、同二八枚目裏七行目の「負ったが、」の次に「第一審被告個人三名に対し、」を、同八行目の「尽くさず、」の次に「何ら不起訴にすべき理由がないにもかかわらず、」を加える。
6 原判決三三枚目表八行目の「概ね」を削り、同一〇行目の「警察本部」の次に「警備部」を、同裏四行目の「警察官」の前に「元」を、同一〇行目の「否認する。」の次に「その余の事実は不知。」を加え、同三四枚目表六行目の「家宅捜索」を「捜索差押」に、同九行目の「町田署」から「妨害したとの点」までを「その余の事実」と、同裏一行目から同三五枚目表五行目までを次のとおり改める。
「 同(六)(1)ないし(3)記載の事実は認める。
同(六)(4)記載の事実のうち、第一審原告靖夫の付審判請求に対し、東京地裁刑事第一一部が、昭和六三年三月七日、請求を棄却する決定をしたこと及び東京高裁第五刑事部が、同年八月三日、第一審原告靖夫の抗告を棄却する決定をしたことは認めるが、その余は不知。」
7 原判決三六枚目表五行目の「(4)」を「(4)ないし(6)」と、同三七枚目裏八行目の「前段は認めるが、後段は」を「前段の事実及び警察庁の警備情報活動の対象として日本共産党が含まれていることは認めるが、その余の事実は」と改め、同三八枚目表五行目の「給与等の費用」の次に「及び神奈川県警察の警備情報収集活動に関する経費」を加える。
8 原判決三八枚目表七行目から同裏一〇行目までを次のとおり改める。
「 警備情報収集活動に関する経費は、第一審被告国が全額負担しているものではなく、同経費の大部分を占める人件費は第一審被告県が負担しているものである。
7 請求原因7(一)(1)ないし(3)記載の事実は認める。
ただし、県警本部長が東京地検検事正に提出した文書は、「一部の警察官が盗聴したということで問擬されたことについて遺憾の意を表明し」、「相応の懲戒処分を行うとともに」、「そういうことで再び疑惑を受けないように今後是正措置を構ずる」という内容であった。
同(一)(4)記載の事実のうち、東京地検が第一審被告甲野及び同乙山に対し強制捜査をしなかったこと及び右第一審被告両名を不起訴処分としたことは認めるが、その余は争う。」
9 原判決三九枚目表二行目の「作成年月日」の次に「及びその記述の内容」を加え、同四行目の「東京地検」から同五行目までを「その余は争う。」と、同九行目の「同検察官」から同一〇行目までを「その余は争う。」と、同裏四行目から同末行までを「同(二)及び(三)記載の各事実を認める。」と改め、同四〇枚目表二行目の「警察本部」の次に「警備部」を加え、同四行目の「(一)」を削り、同裏三行目の「家宅捜索」を「捜索差押」に、同四一枚目表一行目から同八行目までを次のとおり改める。
「 同(六)(3)記載の事実は認める。
同(六)(4)記載の事実のうち、第一審原告靖夫の付審判請求に対し、東京地裁刑事第一一部が、昭和六三年三月七日、請求を棄却する決定をしたこと及び東京高裁第五刑事部が、同年八月三日、第一審原告靖夫の抗告を棄却する決定をしたことは認めるが、その余は不知。」
10 原判決四二枚目表末行の「(4)」を「(4)ないし(6)」と改め、同四四枚目表六行目の「警察本部」の次に「警備部」を加え、同八行目の「被告丙川」から同行の末尾までを「その余は不知。」と改め、同四五枚目表一行目から同裏一行目までを次のとおり改める。
「6 請求原因6(三)(1)記載の事実は認める。
同(2)(3)記載の事実は否認し、法的主張は争う。
7 請求原因8(一)ないし(三)記載の事実はいずれも不知。法的主張は争う。
(第一審被告個人四名の認否)
1 請求原因1(一)記載の事実は不知。
同(二)及び(三)記載の各事実は認める。」
11 原判決四五枚目裏三行目の「警察本部」の次に「警備部」を加え、同四六枚目表一〇行目から同裏六行目までを次のとおり改める。
「 同(六)(3)記載の事実は認める。
同(六)(4)記載の事実のうち、第一審原告靖夫の付審判請求事件に対し、東京地裁第一一刑事部が、昭和六三年三月七日、請求を棄却する決定をしたこと及び東京高裁第五刑事部が、同年八月三日、第一審原告靖夫の抗告を棄却する決定をしたことは認めるが、その余は不知。」
12 原判決四七枚目表五行目の「(4)」を「(4)ないし(6)」と改め、同四九枚目表末行の「警察本部」の次に「警備部」を加え、同五〇枚目表三行目の「対してはは」を「対しては」と、同五一枚目裏一行目から同四行目までを次のとおり改める。
「ついても被告国に国家賠償法三条一項による賠償責任があると主張する。
(1) しかし、第一審被告国に対し、国家賠償法三条一項の賠償責任を問うためには、国庫支弁経費が本件盗聴の実行のために支出されたことを主張立証しなければならないところ、本件においては、その主張立証がない。」
13 原判決五一枚目裏一〇行目の「負担する場合」から同末行までを次のとおり改め、同五三枚目表末行の「民事」を削る。
「負担する場合であって、選任監督者と共同して、実質的に当該公務員の職務を執行させ、かつ違法行為を防止し得る立場にあるものに限定されると解すべきである。
国庫支弁経費には、地方警察職員の人件費を含んでいないし、都道府県が負担する経費と比較すると、国庫支弁経費の割合は五ないし六パーセント程度であり、到底組織運営上の基本的経費を負担しているとはいえず、また、第一審被告国は選任監督者である同県と共同して、実質的に当該公務員の職務を執行させ、かつ違法行為を防止し得る立場にはないから、右主張は失当である。」
二 当審で追加した当事者の主張
1 第一審原告ら
(一) 第一審被告国は、原審において、第一審被告甲野、同乙山の本件盗聴行為を前提とする被疑事件について、東京地検検察官が同被告らに対して起訴猶予処分を行う前提として、公訴を提起し得る嫌疑があると判断したことについては争わないとしながら、他方では本件盗聴行為の存在については不知とする矛盾した訴訟行為をした。
また、第一審被告国は、本件盗聴行為につき、警察庁の関与を否認しているが、積極的な主張立証活動を何もしなかった。原判決は、本件盗聴行為についての県警警備部長の過失を認定して、国の責任を認めたものであって、警察庁の関与を認めたものではないから、この点は控訴しても争う余地がないところである。
(二) 第一審被告県は、本件盗聴行為の存在を否認し、神奈川県警察本部の関与も否認したが、反対事実についての主張立証活動を何もしなかった。したがって、原判決で第一審被告県が敗訴したからといって、事実誤認をいう資格はなく、しかも十分な検討をすることなく、原判決言渡しの日の翌日に控訴状を裁判所に提出している。
(三) 第一審被告甲野、同丙川は、裁判所からの再三にわたる呼び出しにもかかわらず、正当な理由もなく出頭しなかった。また、第一審被告乙山は証拠調期日に出頭したものの、形式的な否認と陳述拒否を繰り返すのみで、本件盗聴行為が存在しないことについての理由を開陳すべき絶好の機会を自ら封じた。したがって、第一審被告個人三名も原判決に不服をとなえる資格はない。
(四) 以上の次第であるから、第一審被告国、同県、同個人三名の各控訴は、いずれも控訴権の濫用に当たり、不適法な控訴であって、その欠缺を補正することができないものであるから、これを却下すべきである。
仮に、右各控訴が不適法ではないとしても、右の第一審被告らは、訴訟の完結を遅延せしめる目的のみをもって右各控訴を提起したものというべきであるから、民事訴訟法三八四条の二の規定に基づき、裁判所は、右の第一審被告らに対し、控訴権濫用に対する制裁金の納付を命ずべきである。
2 第一審被告国、同県、同個人三名
第一審原告らの右主張はいずれも争う。
理由
第一 次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由の第一ないし第五の記載を引用する。
一 原判決五五枚目表八行目の「本件事案の外形的経緯として、」を削り、同裏四行目の「生活している。」の次に「なお、第一審原告靖夫は、国際関係の事務を担当していたことから、時差の関係で、帰宅後深夜に及んで自宅の電話を使用することが多かった。」を加え、同行目の括弧内を「甲一二二、原審における原告靖夫本人、弁論の全趣旨」と、同五六枚目表三行目から同六行目までを「あった。同課の所掌事務の中には日本共産党関係の情報収集が含まれる。」と、同一〇行目の「二七日ころ、」を「二七日、NTT町田電報電話局(以下「NTT町田局」という。)職員の調査により、」と、同裏一行目の「電話回線が取り出されたうえ」を「電話回線(ユ―五―九五)を取り出してこれに切れ込みを加えたうえ」と、同三行目の「が取り出され」を「を取り出し」と、同行の「施されていた」を「施されているのが発見された」と改め、同七行目の「三一、」の次に「丙一、」を加える。
二 原判決五六枚目裏八行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 右工作は、第一審原告ら方電話回線を端子函内の電話線ケーブルから取り出して、それを本件アパートへ繋がる電話回線に接続するという方法によって行われたものであるが、このような方法をとるためには、右端子函内において第一審原告ら方の電話回線を特定しなければならないところ、本件アパート前の電柱(電柱番号グランド南支二一)上の端子函内には合計二〇〇本の電話回線があり、また、第一審原告ら方前の電柱(電柱番号グランド南支二三左五)とはケーブルの色分けも異なっているため、電話回線の色分け等について特殊専門的知識を有するか、もしくはNTT町田局が保管している部外秘の「線番対照簿」を確認しない限り、右の回線を特定することは困難である。(甲三九、四〇、原審証人勝村斉昭)
第一審原告靖夫方においては、これに先立つ昭和六〇年一一月ころ、自宅の電話器に雑音が発生するなどの異常がみられたため、NTT町田局に調査を依頼し、電話回線を従来の「ユ―五―八九」から「ユ―五―九五」に変更したが、「ユ―五―八九」の電話回線には右のような工作は施されていなかった。(甲三一、丙一、弁論の全趣旨)
なお、本件盗聴以前に「警視庁町田警察署係長 警視庁警部補 鈴木秀雄」及び「警視庁町田警察署捜査係長警視庁警部補 小城武典」という名刺を所持した者が、NTT町田局を訪れ、同局からNTTの車両と制服を借り出したことがあった。(甲三八の一ないし三、原審証人勝村斉昭)」
三 原判決五六枚目裏九行目の「名義で、」の次に「期間を二年、」を、同五七枚目表一行目の「住民票が」の次に「貸主に」を、同五行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 訴外志田は、もと神奈川県警察本部警備部に所属していた警察官であり、右賃貸借契約締結当時東芝の労務対策を担当し、企業において日本共産党の思想を排除したいと考えていた者である。(甲三三、原審証人志田鉱八、弁論の全趣旨)
丙川一郎は、昭和六〇年六月当時、川崎市幸区小向仲野町<番地略>所在の東芝△△△寮に居住していたものであり、本件アパートに居住する必要はなく、本件アパートを賃借したことも、本件アパートの賃貸借契約書(甲一三)を作成したことも、本件アパートに居住したこともなかった。(甲一一、一三、三四の三、丙三、弁論の全趣旨)」
四 原判決五七枚目表八行目の「行われた」を「行われていた」と改め、同九行目の「刑事手続の」を削り、同裏五行目の「そこで、」の次に「第一審原告靖夫は、」を、同五八枚目表二行目の「右告訴・告発に対し、」の次に「第一審被告個人四名は、昭和六二年五月ころ、東京地検検察官の取調べを受け、その際、検察官に一〇本の手指の指紋及び足紋を採取された(争いがない事実及び弁論の全趣旨)。そして、」を加え、同五行目の「不起訴裁定を行った」を「不起訴処分にした」と、同五九枚目表四行目の「検察審査会の」を「検察審査会は、」と改め、同行の「付議決」及び同五行目の「は」を削り、同行の「裁定」を「処分」と、同六行目の「と結論した」を「の議決をした」と改める。
五 原判決五九枚目裏一行目から同六八枚目表六行目までを次のとおり改める。
「5 警視庁町田警察署が昭和六一年一二月一日に行った検証及び東京地検が同月六日に行った検証の結果、本件アパートの玄関ドアの新聞受けには、同年一一月二七日付け夕刊から同月三〇日付け朝刊までの「サンケイ新聞」が投入されたままになっており、また、本件アパートの室内には、冷蔵庫、茶箪笥、食器戸棚、洋服箪笥、木製机、カラーボックス、電気こたつ、テレビ、扇風機、机、パイプ式椅子、蚊取りベープ(コード付き)、敷布団三枚、掛布団(夏、冬用各一枚)、まくら二個、座布団三枚、電気あんか、電気スタンド、電気釜、ポット、インスタントコーヒー、クリープ、袋入り菓子、インスタントラーメン五個(昭和六一年一月二〇日から同年一〇月一日までの製造日の刻印があるもの)、ティッシュボックス、ごきぶりホイホイ、男性用整髪料、歯みがき(タバコのやに取り用)、食器類等の生活用具が存在し、冷蔵庫の中にはポカリスエット、オロナミンC等の飲物、わさびやおろししょうが等のチューブ入り薬味、インスタントみそ汁等が在中し、洋服箪笥には、ポロシャツ、ウエスト七六センチメートルのズボン二本(うち一本には「乙山」と記載されている)、男物のハンカチや下着、靴下、ネクタイが在中し、机の引出しには「警察共済組合神奈川県支部医療保険制度」に関するパンフレットが在中し、干したままの洗濯物、「織田信長」等の書籍多数、昭和六〇年九月五日付け神奈川新聞、昭和六一年一〇月二七日付け、同年一一月六日付け、同月一一日付け、同月一七日付け、同月一九日付け、同月二二日付け各「サンケイ新聞」、同月二五日付け「東京スポーツ新聞」等の古新聞、「フライデー」や「週刊宝石」等の週刊誌、東芝健康保険組合のカレンダー、封筒等が遺留され、ベランダには洗濯機が置かれていた。
この他、テープレコーダー二台、カセットテープ一六巻、未記入のレポート用紙五冊、筆記用具、聴診器型イヤホン、電話機一台等も遺留されており、カセットテープの内容はすべて消去されていたが、一部のカセットテープのラベルには、日付やナンバーの筆記と消去を繰り返した筆圧痕が残っており、そのうちの一つには、鉛筆書きで「61,2,14 No.2」との文字が残されていた。そして、以上の家具及び生活用品から多数の指紋、掌紋が検出された。(甲七ないし一〇、二〇、三〇、四九、五〇、七五、一三六の一、二、一三七、弁論の全趣旨)
6 右電話機及びテープレコーダーを使用して本件アパート内で第一審原告ら方の電話による通話の傍受を試みたところ、傍受が可能であり、通話をテープに録音することもできた。(甲八、二一、丙二)
7 本件盗聴が発覚した昭和六一年一一月二七日、NTT町田局の職員が、本件アパートの貸主の子の妻で、本件アパートの鍵を保管していた小林雅子に対して本件アパートへの立入りを求めたところ、同女は借主本人の了解がないので勝手に開けるわけにはいかないとしてこれを断った。
町田警察署は、同年一二月一日午前九時三五分から午後五時一〇分までの間、本件アパートの検証を行ったか、右検証には、右小林雅子から立会を依頼された同女の義妹の小宮山悦子(本件アパートの貸主の子)が立会った。(甲八、丙二、原審証人勝村斉昭)
8 第一審原告靖夫が、相手方を丙川一郎こと氏名不詳者(同特別代理人中田早苗)として東京地裁八王子支部に申し立てた起訴前の証拠保全申立事件(同支部昭和六一年(モ)第二四七九号)について、同支部は、同年一二月一日午後四時から、本件アパート内及び本件アパート前の電柱などの検証を実施し、その際前記小宮山悦子は、本件アパート前に駐車していた町田警察署のマイクロバスに乗車していたが、メゾン玉川学園の配線盤の蓋を開けることについての同女の同意をめぐって申立人代理人と警察官が争っている間に、右マイクロバスが同女を乗車させたまま走り去ってしまったため、同支部は右配線盤の検証を行うことができなかった。また、本件アパート内の検証については、右事件の相手方特別代理人の同意が得られなかったため、同裁判所は検証を不能とした。(甲六九、丙一、二、原審における第一審原告靖夫尋問の結果、証拠保全手続における検証の結果、弁論の全趣旨)
9 本件アパートの賃料は、本件盗聴の発覚後、約二か月間は振込み支払されていたが、その後は支払がされず、賃貸借契約の解約手続もされなかったため、貸主側では、本件アパート内に留置されていた物品の引き取りを町田警察署に申し入れた結果、昭和六二年四月以降同年七月までの間に右物品は本件アパートから搬出された。(丙二)
四 右一ないし三の事実を前提として、以下検討する。
1 第一審原告靖夫方の電話回線と本件アパートに繋がる電話回線が接続され、本件アパート内で第一審原告靖夫方の通話を傍受し、その内容を録音することができるように工作されていたことからすると、本件アパートは第一審原告靖夫方の通話を傍受し、その内容を録音する目的で賃借されたものと考えられる。
2 本件アパートの賃借人となっていた丙川一郎は、当時、勤務先会社である東芝の川崎市所在の寮に居住していて、本件アパートに居住する必要はなく、本件アパートの賃貸借契約書を作成したことも、本件アパートに居住したこともなかったことからすると、本件アパートについての賃貸借契約は、何者かが同人の名義を使用して締結の手続をしたものと考えられる。
3 本件アパートの遺留品の種類、数、遺留指紋の数等からすると、本件アパートの居住者には女性や子供は含まれておらず、また、複数の成人男性が本件アパートに出入りしていたものと考えられる。
4 本件アパートが丙川一郎名義で賃借されたのは、昭和六〇年六月一六日であり、右賃貸借契約の期間は二年間とされていたこと、第一審原告靖夫方の電話回線を「ユ―五―八九」から「ユ―五―九五」に変更した昭和六〇年一一月ころは電話回線についての工作が施されていなかったこと、本件アパートの遺留品であるカセットテープのラベルの中に、鉛筆書きで「61,2,14 No.2」との文字が残されていたこと(このうち「61,2,14」は昭和六一年二月一四日の日付けを示すものであることは、その表記に照らして明らかである。)、夏期に使用される扇風機、蚊取りベープ、夏用掛布団等と共に、冬期に使用される電気こたつ、電気あんか、冬用掛布団等が遺留されていたこと、その他の遺留品の種類、数、状況等からすると、本件盗聴は、本件アパート内において、昭和六〇年一一月ころから昭和六一年二月一四日ころまでの間に開始され、その後同年一一月二七日ころまで継続的に行われていたものであって、もしも同日これが発覚しなければ更に継続して行われていたものと考えられる。
5 第一審原告靖夫方の電話回線が「ユ―五―九五」であることはNTT内部の線番対照簿(甲三九)によってしか知り得ないものであり、また一〇〇本の電話回線から「ユ―五―九五」を取り出し、切れ込みを加え、本件アパートの電話回線と接続するには、電話回線に対する高度の知識と熟練した技術を要するものと考えられることからすると、この工作をした者の中にはNTT内部の情報を知り得る立場にあった者ないし右のような知識と技術を備えていた者が含まれていたものと考えられる。
6 本件アパートの賃借人となっている丙川一郎は、第一審被告丙川の長男であること、また、その保証人となっている訴外志田は、元神奈川県警の警察官であり、本件アパートの貸主に提出された訴外志田の住民票写しの交付を受けるために海老名市役所に提出された住民票関係交付申請書の申請人欄には第一審被告甲野の住所氏名が記載されていること、第一審被告丙川及び同甲野はいずれも神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官であり、同課の所掌事務には、日本共産党関係の情報収集が含まれていること、本件アパート内の遺留品の中に「警察共済組合神奈川県支部医療保険制度」に関するパンフレットが存在したこと等からすると、本件盗聴については、警察関係者、中でも神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官が関与していたものと考えられる。
五 以上のような点に、第一審原告靖夫が日本共産党中央委員会幹部会委員・国際部長の地位にあることを合わせ考えると、本件盗聴は、第一審原告靖夫の電話による通話を傍受することによって日本共産党に関する情報を得ることを目的として計画的かつ継続的に実行されたもので、これには神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官が関与していたものと推認することができる。
第二 第一審被告個人らの関与の有無
一 第一審被告個人三名について
1 第一審被告個人三名は、いずれも神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官であり、その職務内容には日本共産党関係の情報収集が含まれていた。(第一の一4認定の事実、弁論の全趣旨)
2 第一審原告らと第一審被告丙川との間においては、同丙川名下の「丙川」の印影が同丙川の印章によるものであることについては争いがない甲五二の二(横浜銀行に対する普通預金総合口座新規取引申込書)及び同三(同銀行に対するキャッシュ・サービスカード暗号届)の各印影と甲一三(本件アパートについての建物賃貸借契約書)の丙川一郎名下の「丙川」の印影とを対照すると、その印影は同一であると認められること、甲三四の三、丙三によれば、丙川一郎の住民票の住所地は「川崎市幸区小向仲野町<番地略>」であり、同人も普段そのように記載していたが、本件アパートの賃貸借契約締結に際し、貸主側に提出された同人の住民票の交付を受けるために川崎市幸区役所に提出された同人名義の住民票等の請求書(甲一一)には、同人の住所地は「川崎市幸区小向仲野町<番地略>」と誤記されていること、右甲一一及び一三の丙川一郎作成部分の筆跡は丙三により同人の自署であることが認められる同号証末尾の同人の筆跡と明らかに相違すること、甲一四〇によれば、第一審被告丙川は預金通帳の関係で銀行備付けのビデオに写っており、送金にかかわっていたことが認められること、前記第一の二2の事実、殊に第一審被告丙川は丙川一郎の実父であること及び丙川一郎は他に住居を有しており、居住のために本件アパートを使用する必要性は全くなかったことを総合すると、第一審被告丙川は本件アパートの賃貸借契約締結の手続に関与していたことが推認できる。
3 弁論の全趣旨により、第一審被告甲野がその意思に基づいて作成したものと認められる甲三二の六一ないし六四の各筆跡と甲一二の甲野太郎の住所氏名の筆跡とを対照すると、両筆跡は同一であると認められること、甲一三、三四の一、二、原審証人志田鉱八の証言、弁論の全趣旨によると、第一審被告甲野は、本件盗聴以前から訴外志田と知り合いであったものと認められることに加えて、前記第一の二2認定の事実を総合すると、第一審被告甲野は、訴外志田の承諾を得て海老名市役所から住民票の交付を受け、また、同人から同人作成の保証承諾書の交付を受けるなどして、第一審被告丙川か本件アパートの賃貸借契約を締結するのに協力したことが推認できる。
4 いずれも成立に争いがなく、第一審被告乙山が自署したものと認められる甲七四の一ないし一一及び七八の同被告作成部分の各筆跡と甲一四の一ないし六、同九ないし一三、同三二の一五ないし六〇及び同二二の二の手書き部分の各筆跡とを対照すると、その筆跡は同一であると認めることができるから、甲一四の一ないし六、同九ないし一三及び同二二の二は、第一審被告乙山が丙川一郎の名義を使用して作成したものと認められること、右甲一四の一ないし六、同九ないし一三及び同二二の二の各存在、甲二二の一、弁論の全趣旨によると、第一審被告乙山はいずれも丙川一郎名義で、昭和六〇年九月七日、本件アパートの水道使用申込書を町田市水道部業務課に提出し、また、東京都民銀行において、次のような入出金及び自動振替依頼等の手続をしたことが認められる。
① 昭和六〇年七月三日、一〇〇〇円を預金して普通預金口座(口座番号〇三七四八二〇)を開設し、普通預金印鑑票及び「とみん固定口座振替依頼書」を提出し、本件アパートの家賃の自動振替を依頼。
② 同月二三日、金六万円を入金。
③ 同年八月二一日、金八万〇〇九〇円を入金。
④ 同日、五円玉で四〇〇〇円を出金。
⑤ 同日、本件アパートの電気及びガス料金の自動振替を依頼。
⑥ 同年九月二五日、金八万〇七五一円を入金。
⑦ 同月三〇日、本件アパートの水道料金の自動振替を依頼。
⑧ 同年一〇月二二日、金八万円を入金。
⑨ 同年一二月一一日、金五万円を入金。
5 甲一四〇及び弁論の全趣旨によると、本件アパート内の前記遺留品中の新聞紙から第一審被告乙山、同甲野の指紋が検出され、また、前記第一の三5のとおり、遺留品の中に「乙山」と記載されているズボンがあったことからすると、右第一審被告乙山、同甲野が本件アパートに出入りしていたことが推認できる。
6 前記第一の三2、3認定のとおり、第一審被告甲野及び同乙山については、本件訴訟に先立ち、東京地検検察官によって、電気通信事業法違反につき起訴猶予の処分がなされ、さらに、付審判請求事件における東京地裁及び東京高裁の各決定においても、同人らが、第一審原告靖夫方の通話を、職務上の行為として継続的もしくは断続的に盗聴しようとした事実は、十分に推認することができる旨が判示されている。
この点につき、第一審被告県及び同個人らは、起訴猶予処分や付審判請求手続における決定は、当裁判所とは別個の行政機関ないし裁判所が下した処分ないし決定にすぎないから、当裁判所が右決定に拘束されるものではなく、また、右処分や決定には証拠の標目が挙げられていないから、証拠資料としても重視されるべきではない旨主張する。
しかし、右処分ないし決定は、検察官、裁判官らが直接刑事記録を精査したうえで判断したものであること、その刑事記録中には、第一審被告個人四名が東京地検検察官の取り調べを受けた際の供述、本件アパート内の家具及び生活用品から検出された多数の指紋と第一審被告個人四名が東京地検検察官の取り調べを受けた際に採取された手指の指紋との対照結果等本訴には提出されていない証拠資料が含まれていたことが容易に推認できること、右の検察官と裁判所の判断内容は、第一審被告乙山及び同甲野が本件盗聴に関与したという点においては一致していることからすると、検察官、裁判所が右のように判断したという事実自体を事実認定の一資料として考慮することは許されないものではないというべきである。
7 ところで、第一審被告県及び同個人らは、第一審被告乙山が、原審における本人尋問において、自己の本件盗聴への関与を全面的に否定する内容の供述を行っていることを強調し、第一審被告乙山の本件盗聴への関与を否定すべきであると主張するが、第一審被告乙山は、単に否認を繰り返し、あるいは「個人的なことなので答えたくない。」等として、事実関係に関する具体的な供述を拒否する態度に終始していたものであって、本件盗聴行為に無関係であることを、具体的な事実に即して供述したものではないから、右の供述から第一審被告乙山が本件盗聴に関与していなかったものということは到底できず、右主張は採用することができない。
8 以上の点及び前記第一の二ないし五において認定・説示したところを総合すると、第一審被告個人三名は、他の氏名不詳者らと共同して、第一審原告靖夫方の電話回線に本件アパートの電話回線を接続する方法によって、遅くとも昭和六一年二月一四日ころから同年一一月二七日ころまでの間、継続して第一審原告靖夫方の電話の盗聴(本件盗聴)をしたものと推認することができ、右行為は有線電気通信法一三条、電気通信事業法一〇四条に違反する違法なものであることは明らかというべきである。
二 第一審被告丁原について
1 第一審被告丁原は、本件盗聴当時、第一審被告甲野及び同乙山と同一の部署に所属して、警備情報の収集に従事し、日本共産党関係の情報収集を担当していたことが認めれる(第一の一4認定の事実、弁論の全趣旨)ほか、本件アパート内に遺留されていた封筒から第一審被告丁原の指紋が検出されたこと(甲一四〇、弁論の全趣旨)、第一審被告丙川に依頼されて、昭和六一年一一月二八日に、横浜銀行横浜支庁出張所の第一審被告丙川名義の銀行預金口座を解約し、別の口座を開設したこと(丙一三)を認めることができる。
2 しかしながら、第一審被告丁原の指紋が検出されたのは、本件アパート内の遺留品のうち封筒だけであり、他の遺留品から同被告の指紋が検出されたことを認めるに足りる証拠はないことからすると、右の指紋は、本件アパート外で何らかの機会に右の封筒に付着した後に本件アパート内に持ち込まれたという可能性も否定することができず、また、第一審被告丙川名義の銀行預金口座の解約及び別口座の開設は、本件盗聴行為の発覚後に第一審被告丙川の依頼を受けて行ったものであることが認められるから(丙一三)、右の事実から第一審被告丁原が本件盗聴に関与していたものと認めることはできないといわざるを得ない。
第一審原告らは、本件アパート内の遺留品のうち、家具からも第一審被告丁原の指紋が検出された旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はなく、他に第一審被告丁原が本件盗聴に関与していたことを認めるに足りる証拠はない。
第三 第一審被告らの責任について
一 第一審被告県の責任
1 前記第二の一において判示したとおり、第一審被告個人三名は、いずれも本件盗聴行為に関与していたものである。
2 そして、第一の一4において判示したとおり、神奈川県警察本部警備部公安第一課の所掌事務には日本共産党関係の情報収集事務が含まれていること、本件盗聴の当時、第一審被告個人三名は、いずれも同課に所属していたこと、情報収集活動を末端の警察官が職務と無関係に行うことは通常あり得ないこと(原審証人松崎彬彦の証言)からすると、本件盗聴行為は、神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官である第一審被告個人三名が、いずれも第一審被告県の職務として行ったものと推認することができるというべきである。
3 そうすると、第一審被告県の公権力の行使に当たる公務員である第一審被告個人三名が、第一審被告県の職務を行うについて、第一審原告らに対し、故意により(本件盗聴行為が第一審被告個人三名の故意によるものであることは、前記一の8の判示から明らかである。)、違法な本件盗聴行為を行ったものであるから、第一審被告県は、国家賠償法一条一項により、第一審原告らが本件盗聴行為によって受けた損害を賠償すべき責任がある。
二 第一審被告国の責任
(警察庁職員の故意による不法行為について)」
六 原判決六八枚目表一〇行目の「関すること」の次に「等」を、同六九枚目表一〇行目の「集会」の次に「場所」を加え、同裏二行目の「昭和五四年」を「昭和五三年」と、同四行目の「公安部」を「公安部長」と、同七〇枚目裏五行目から同八〇枚目裏末行までを次のとおり改める。
「2 右1認定の事実によれば、第一審被告国の機関である警察庁は、昭和二九年の警察法施行以来現在に至るまで、一貫して日本共産党を警備情報収集の対象と位置づけており、全国の都道府県警察に対し、同党関係の情報収集に関する一般的な指示を行い、かつ各都道府県警察が収集した同党関係の情報は、担当部署において報告を受けていたものと推認することができる(原審証人堀貞行及び同三島健二郎の各証言中には、右の一般的な指示・報告の事実を否定するような部分があるが、前掲の証拠及び前記認定の事実に照らし、右部分は到底採用することができない。)が、前記の事実によっても、これ以上に進んで、警察庁長官、同次長、同警備局長、同公安第一課長らの同庁職員が、第一審被告個人三名らに対して、神奈川県警察本部を通じての又は直接的な指示、共謀、企図、容認、奨励等の下に、本件盗聴を行わせたものとまでは認めることができず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、右の警察庁職員に故意による不法行為があったことを前提とする第一審原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。
(県警本部長及び同警備部長の故意による不法行為について)
1 神奈川県警察本部には警備部が設置され(警察組織に関する条例二条一項、三条6)、右警備部には公安第一課が設置されている(神奈川県警察の組織に関する規則四条一項、二九条)。そして、右警備部には、部長(同条例二条二項)が、公安第一課には課長及び課長代理(同規則五九条一項、六〇条一項)が配置され、部長は本部長の命を受け、部務を掌理し(同条例二条三項)、課長は上司の命を受けて課の事務を掌理し、所属職員を指揮監督し(同規則五九条三項)、課長代理は課長を補佐し、上司の命を受けて課の事務を整理し、所属職員を指揮監督し、課長に事故がある場合はその職務を代理する(同規則六〇条三項)ものとされている。(甲四一、五三ないし五五)
また、警察法はその四八条二項において、道府県警察本部長は、道府県警察本部の事務を統括し、並びに道府県警察の所属の警察職員を指揮監督するものと定めている。
2 右によると、法令上及び神奈川県警察本部の組織上、県警本部長は同警備部長、同公安第一課長を通じて、同警備部長は同公安第一課長を通じて、いずれも同公安第一課所属の警察官を指揮監督し得る立場にあるということができる。しかし、法令上及び組織上指揮監督し得る立場にあるということから、当然に、本件盗聴について、第一審被告個人三名らに対して、県警本部長ないし同警備部長が、同公安第一課長を通じての(県警本部長については、同警備部長、同公安第一課長を通じての)又は直接的な指示、共謀、企図、容認ないし奨励等の下に本件盗聴を行わせたものと認めることはできないというべきであり、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、県警本部長及び同警備部長に故意による不法行為があったことを前提とする第一審原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。
(県警警備部長の過失による不法行為について)
1 前記認定のとおり、本件盗聴は、第一審被告個人三名を含む神奈川県警察本部警備公安第一課所属の少なくとも三名以上の警察官が関与し、かつ長期間にわたって継続的に行っていたものであることを考えると、県警警備部長は、部務を掌理する者として、同警備部に属する同公安第一課ないしその所属の警察官である第一審被告個人三名らによる本件盗聴行為の計画ないし実行を予見し、回避することができたのにこれを怠り、本件盗聴行為を回避しなかった点において過失があったものというべきである。
2 ところで、警察法及び地方自治法は、都道府県に都道府県警察を置き、警察の管理及び運営に関することは都道府県の処理すべき事務と定めている(警察法三六条一項、地方自治法二条六項二号)から、神奈川県警察本部が行う警備情報の収集の事務は、普通地方公共団体である神奈川県の事務であり、県警警備部長がその属する神奈川県警察本部の職員に対して行使する指揮命令は、神奈川県の事務についての指揮命令であって、神奈川県の公権力の行使にほかならないというべきである(最高裁昭和五四年七月一〇日第三小法廷判決・民法三三巻五号四八一頁参照)。したがって、本件盗聴行為に関する県警警備部長の前記過失により、第一審原告らが被った損害について、第一審被告国は国家賠償法一条一項による損害賠償責任を負うものではなく、第一審被告県が右の責任を負うべきものである。
3 しかし、県警警備部長は国家公務員であり、その俸給その他の給与は第一審被告国が負担している(当事者間に争いがない。)のであるから、その余の点について判断するまでもなく、第一審被告国は、同警備部長の前記過失によって第一審原告らが被った損害について、国家賠償法三条一項による損害賠償責任を負うべきものであることが明らかである。
三 第一審被告個人四名の責任について
1 第一審被告丁原の責任について
第一審被告丁原が本件盗聴行為に関与していたと認められないことは前記第二の二のとおりであるから、第一審原告らの第一審被告丁原に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
2 第一審被告個人三名の責任について
(一) 第一審被告個人三名がいずれも、第一審被告県の職務行為として、本件盗聴行為に関与していたと認められることは、前記第二の一及び第三の一に判示したとおりである。
(二) 第一審原告らは、公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は重過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体だけでなく、公務員個人も損害賠償責任を負うと解すべきであるとし、本件においては、第一審被告個人三名には、故意があったもので、その故意の内容は犯罪行為そのものについての認識であり、加えて当初から自己の行為の違法性を認識しつつ行動していたものであるから、個人としても厳正な法的責任をとらせる必要がある旨主張する。
しかし、公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、その公務員が属する国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わないものと解すべきである(最高裁昭和三〇年四月一九日第三小法廷判決・民集九巻五号五三四頁、最高裁昭和四七年三月二一日第三小法廷判決・裁判集一〇五号三〇九頁、最高裁昭和五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁等参照。)。
このことは、国家賠償法一条が、一項において、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、その公務員に故意、過失のいずれがある場合でも、これを賠償する責に任ずるものとしながら、二項において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する旨を規定しているのみで、公務員に故意又は重大な過失があったときのその公務員個人の他人に対する損害賠償責任について、何ら規定していないことからも明らかというべきである。
国家賠償制度は、広い意味における不法行為制度の一環として、損害の填補を目的とするものであって、加害者個人に対する制裁等を目的とするものではないところ、国家賠償法一条を前記のように解しても、何ら被害者の救済に欠けることとなるものではないし、他面において、加害者個人に対する制裁等の点については、事柄の性質上、刑事訴追等別途の方法にゆだねられるべき筋合のものというべきである。
以上の次第であるから、第一審被告個人三名について、個人としても法的責任をとらせる必要がある旨の第一審原告らの前記主張は、採用することができない。なお、第一審原告らは、第一審被告個人らの刑事責任を問うことができなくなったことの代償として、民事上の責任を追及する必要があるとも主張するが、国家賠償制度の前記趣旨・目的に照らし、右主張も採用の限りではない。
(三) 以上のとおりであるから、第一審原告らの第一審被告個人三名に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
第四 不起訴処分による第一審被告国の責任について
第一審原告靖夫は、検察官らの裁量権を逸脱した本件不起訴処分により精神的損害を被ったから、第一審被告国は、第一審原告靖夫に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償責任がある旨主張するので、右主張の当否について検討する。
検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものでないから、被害者が公訴の提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ではないというべきである。したがって、被害者は、検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできないというべきである(最高裁平成二年二月二〇日第三小法廷判決・判例時報一三八〇号九四頁参照)。
そうすると、本件不起訴処分について、第一審被告国は、第一審原告靖夫に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償責任がある旨の同第一審原告の前記主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当というべきである。
第五 本件盗聴による第一審原告らの損害
一 慰謝料
1 本件は、憲法上保障されている重要な人権である通信の秘密を始め、プライバシーの権利、政治的活動の自由等が、警察官による電話の盗聴という違法行為によって侵害されたものである点で極めて重大であるといわなければならない。
そして、電話回線の傍受による盗聴は、その性質上、盗聴されている側においては、盗聴されていることが認識できず、したがって、盗聴された通話の内容や、盗聴されたことによる被害を具体的に把握し、特定することが極めて困難であるから、それ故に、誰との、何時、いかなる内容の通話が盗聴されたかを知ることもできない被害者にとって、その精神的苦痛は甚大であり、この点は、慰謝料額を算定するについて充分に斟酌すべきものである。
2 第一審原告靖夫は、本件盗聴の当時、日本共産党国際部長の地位にあって、アメリカ、フランス、スペイン、イタリア、ルーマニア、中国等における政党関係者や外国特派員等との間において、国際情勢や党務に関する事項等について、国際電話で頻繁に通話をしていたほか、国内においても、党関係者や、親族、知人、友人等との間において、公的又は私的な通話を行っていたことが認められる(甲一一一、一一三、丙一、原審における第一審原告靖夫、弁論の全趣旨)ところ、本件盗聴の期間中は、継続してこれらの通話が盗聴にさらされ、更には録音されていたことが推認されるのであるから、盗聴された通話の内容や盗聴されたことによる被害を具体的に証する証拠はないものの、その精神的な苦痛は極めて重大かつ甚大なものと認められる。
3 第一審原告周子は、昭和二三年四月三日生れの専業主婦であり、自宅電話を最も頻繁に使用する立場にあったほか、新日本婦人の会という婦人団体に属し、その活動のために自宅電話を使用していたことが認められる(甲一一一、一二二、原審における第一審原告周子、弁論の全趣旨)ところ、このような通話が傍受されたことが推認されるのであるから、本件盗聴の目的が第一審原告周子の通話の傍受ではなく、また、盗聴された通話の内容や、盗聴されたことによる被害を具体的に証する証拠はないとしても、右のような点は、第一審原告周子が本件盗聴によって受けた精神的な苦痛として十分に斟酌されなければならない。
4 第一審原告サワは、明治四四年四月二〇日生れで、プロテスタント教会の信者として活動していたものであり、教会関係者を中心とする友人との会話やその他の私的な会話などのために自宅電話を使用していたことが認められる(甲一二二、原審における第一審原告周子、弁論の全趣旨)ところ、このような通話が傍受されたことが推認されるのであるから、本件盗聴の目的は第一審原告サワの通話の傍受ではなく、また、盗聴された通話の内容や、盗聴されたことによる被害を具体的に証する証拠はないとしても、右のような点は、第一審原告サワが本件盗聴によって受けた精神的な苦痛として十分に斟酌されなければならない。
5 以上の点を総合すると、第一審原告らが本件盗聴によって被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、第一審原告靖夫について二〇〇万円、同周子について一〇〇万円、同サワについて六〇万円とするのが相当である。」
七 原判決八一枚目表一行目の「三」を「二」と、同六行目の「四」を「三」と、同一〇行目の「一一万円」を「二一万円」と、同末行の「五万円」を「一〇万円」と、「三万円」を「六万円」と改める。
第二 当審で追加した控訴人の主張について
第一審原告らは、第一審被告丁原以外の第一審被告らの各控訴につき、右の第一審被告らは、原審では、本件盗聴行為の存在ないし第一審被告らの責任原因事実を争いながら、積極的な主張、立証活動を何もしなかったのに、控訴を申し立てたものであるから、右各控訴は控訴権の濫用に当たり、不適法というべきであり、そうでないとしても、裁判所は、民事訴訟法三八四条の二の規定に基づき、右の第一審被告らに制裁金の納付を命ずべきであると主張する。
しかしながら、控訴権は、民事裁判の当事者の基本的な権利であるから、控訴の提起が濫用であるというためには、控訴が結果的に理由がなかったことに帰したということでは足りず、訴訟の完結を遅延させる目的のみをもって控訴を提起したような場合でなければならないというべきである。
これを本件についてみると、前記判示のとおり、第一審被告個人三名の各控訴には理由があるのであるから、右各控訴の提起が濫用でないことはいうまでもないところであるし、第一審被告国及び同県は、原審において、いずれも第一審原告らの事実上及び法律上の主張を重要な部分において争っていたものであって、本件の審理の経過に照らして、訴訟の完結を遅延させる目的のみをもって各控訴を提起したような場合であると認めることはできないというべきである。
よって、第一審原告らの前記主張は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がなく、採用することができない。
第三 結論
以上の次第で、第一審原告らの第一審被告らに対する本訴請求は、第一審被告国及び同県に対し、第一審原告靖夫が二二八万六一七五円、同周子が一一〇万円、同サワが六六万円及び右各金員に対する不法行為の後である昭和六一年一一月二七日から右各金員の支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、第一審原告らの第一審被告国及び同県に対するその余の請求並びに第一審被告個人らに対する各請求はいずれも理由がないから、第一審原告らの各控訴に基づき、原判決中第一審被告国及び同県に関する部分については、これと結論を異にする原判決を右のとおり変更し、第一審被告個人三名の各控訴に基づき、原判決中第一審被告個人三名の各敗訴部分を取り消して右各請求をいずれも棄却し、第一審原告らの第一審被告個人四名に対する各控訴並びに第一審被告国及び同県の各控訴は理由がないので、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言及び担保の提供を条件とする仮執行免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官村田長生 裁判官福岡右武 裁判官田中清は退官のため署名押印することができない。 裁判長裁判官村田長生)